• 4月 25, 2026

花粉が落ち着いても油断しないで|横浜に飛来した黄砂の影響

4月に入り、横浜エリアのスギ・ヒノキ花粉の飛散量は徐々に落ち着いてきました。「やっと楽になってきた」と感じていた方も多かったと思います。ところが今週、4月21〜22日にかけて関東を含む広い範囲に黄砂が飛来しました。

「花粉が終われば一安心」と思いがちですが、4月下旬から5月にかけては黄砂・残存花粉・PM2.5が重なる、呼吸器にとってむしろ油断できない時期が続きます。

今日は、黄砂がなぜ呼吸器に影響するのか、喘息やCOPDの方が特に注意すべき理由を解説します。

黄砂は中国大陸のゴビ砂漠やタクラマカン砂漠から偏西風に乗って飛来する砂塵です。問題は「砂が飛んでくる」という単純な話ではないことです。

黄砂の粒子径は平均約4μmで、スギ花粉(約30μm)と比べてはるかに小さい。この4μmという大きさは、気管支の奥に最も沈着しやすい粒子径です。喘息やCOPDの治療に使うパウダー系吸入薬が、薬剤の粒子をこの直径に近づけて設計されていることからも、この粒子径が気道深部に届きやすいことがわかります。

さらに黄砂は数千kmを飛ぶ過程で、中国大陸の都市部を通過しながらPM2.5・有機金属・カビ・細菌・タールなどの有害物質を表面に吸着させてきます。つまり、黄砂が気道に入るということは、これらの汚染物質が気管支の奥まで一緒に届くということです。

① 気道の直接炎症

黄砂粒子とその付着物が気管支粘膜に沈着すると、気道上皮細胞が炎症反応を起こします。もともと慢性的な気道炎症を抱えている喘息・COPD患者では、この炎症が増悪して咳・痰・息苦しさが悪化します。

② 花粉爆発との相乗効果

あまり知られていませんが、黄砂などの微小粒子が花粉に付着すると、花粉の表面に亀裂が入り、花粉が膨張・破裂する「花粉爆発」という現象が起きます。通常、花粉(約30μm)は気管支の奥まで届きにくいのですが、破裂すると1μm以下の微細な破片になり、気道深部まで到達するようになります。花粉シーズン終盤に黄砂が重なると、この現象によって喘息が急激に悪化するケースがあります。

③ PM2.5との複合影響

黄砂の飛来時はPM2.5の濃度も同時に上昇します。PM2.5(粒径2.5μm以下)は黄砂よりさらに小さく、肺胞まで到達します。肺胞に沈着したPM2.5は炎症を引き起こすだけでなく、血流に入り込み、心血管系にも影響を及ぼすことが報告されています。環境省の研究では、黄砂とPM2.5の複合曝露は単独よりも肺への炎症・アレルギー増悪作用が大きいとされています。

黄砂・PM2.5の影響は、以下の方で特に強く出やすいです。

  • 気管支喘息の治療中の方:黄砂飛来時に発作が起きやすくなります。吸入薬の使用を継続し、発作時の対応薬(短時間作用型β2刺激薬)を手元に準備しておくことが重要です。
  • COPDの方:もともと肺機能が低下しているため、粒子による追加の炎症が呼吸困難の急性増悪につながるリスクがあります。
  • 花粉症とアレルギーが合併している方:上記の「花粉爆発」の影響で、残存花粉との相乗効果が起きやすい時期です。
  • 高齢者・小児:気道の防御機能が弱く、粒子の沈着による影響を受けやすいとされています。

外出時 不織布マスクを着用しましょう。一般的な不織布マスクでも黄砂の吸入量を一定程度軽減できます。黄砂が濃い日(視程が悪化している日・空が黄褐色に霞んでいる日)は屋外での長時間運動を控えることをお勧めします。

帰宅時 玄関に入る前に衣類や髪についた粒子を払い落としましょう。室内に入ってからの手洗い・うがい・洗顔も効果的です。

換気の方法 換気したい場合は窓を全開にせず、10cm程度開けてレースのカーテン越しに行うだけで、室内への侵入量をかなり減らせます。洗濯物・布団の外干しも黄砂飛来日は避けましょう。

情報の確認方法 環境省が運営する「そらまめくん」(大気汚染物質広域監視システム)で、リアルタイムのPM2.5・黄砂の濃度を確認できます。気象庁・tenki.jpの黄砂予報も参考になります。

治療中の方へ 喘息・COPDの治療中で吸入薬を使用している方は、黄砂飛来時でも吸入薬を中断しないことが最重要です。「症状が出てから使う」ではなく、黄砂が多い日は予防的に吸入薬を継続することが発作予防につながります。心配な方は主治医に相談してください。

黄砂飛来後に以下の症状が新たに出たり、悪化したりした場合は呼吸器内科への受診を検討してください。

  • 咳・痰が急に増えた
  • 息苦しさが悪化した
  • 吸入薬を使っても発作が治まらない
  • 喘鳴(ヒューヒュー音)が出るようになった
  • 花粉症と思っていたが今年は特に咳がひどい

横浜は海風と内陸の気温差が大きく、大気中の粒子が滞留しやすい地形的な特性があります。黄砂・PM2.5の影響を受けやすい環境であることを念頭に置いて、この時期の呼吸器症状には特に注意が必要です。

横浜フロントクリニックでは、喘息・COPD・アレルギー性気道炎症の診断と治療に対応しています。「黄砂の時期になると咳がひどくなる」「花粉が終わったのに症状が続いている」という方も、一度ご相談ください。FeNO検査・呼吸機能検査を受診当日に実施し、その日のうちに診断・治療方針をお伝えします。

参考文献

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と健康」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
  • 日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」南江堂
  • 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「アレルギー性鼻炎治療におけるアドヒアランスを考慮した第二世代抗ヒスタミン薬の選択と指導」日本耳鼻咽喉科学会会報 2019

井上 哲兵(いのうえ・てっぺい)
医療法人社団南州会 フロントクリニックグループ 理事長/医学博士
日本呼吸器学会 呼吸器専門医

2019年4月に医療法人社団南州会 理事長に就任。現在は3院の呼吸器医専門クリニックを要するフロントクリニックグループを運営。

フロントクリニックグループ一覧

【保有資格・所属学会】

  • 緩和ケア研修会修了医
  • 医学博士
  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
  • 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医
  • 日本医師会認定産業医
  • 厚生労働省認定 臨床研修指導医
  • 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
  • 難病指定医(呼吸器)

    参考文献
  • 環境省 大気汚染物質広域監視システム(そらまめくん)https://soramame.env.go.jp/
  • 環境省・気象庁「黄砂に関する気象情報」https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/kosa/
  • 国立環境研究所「黄砂とPM2.5による複合大気汚染の肺炎・アレルギー疾患増悪作用とメカニズム解明」環境省環境研究総合推進費 5-1457
  • 日本気象協会 tenki.jp 黄砂情報(2026年4月21〜22日)
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