- 3月 28, 2026
市販の咳止めが効かない理由を呼吸器専門医が解説|その咳、放置していませんか?

咳止めを飲んでも治らない咳は、最初から「咳止め」で治る咳ではないかもしれない
外来をしていると、「市販の咳止めを飲んでいるんですが、全然止まらなくて」とおっしゃる患者さんに、本当によく出会います。
咳が出るから咳止めを買う、という判断は自然です。ただ、咳止め薬が効くのは「咳の反射を一時的に抑える」ことだけで、気道の中で何が起きているかには関与しません。気道に慢性的な炎症があって出ている咳に、咳止めを飲んでも改善しないのは、ある意味当然のことなのです。
3週間以上咳が続いているなら、その咳は「慢性咳嗽」という状態であり、原因疾患の診断と、炎症に直接作用する治療が必要です。
2から3週間以上続く咳の原因として、まず何を疑うか
長引く咳の原因は複数ありますが、呼吸器専門医として外来で最も多く遭遇するのは以下の疾患です。
咳喘息 喘鳴(ヒューヒュー音)や息苦しさがなく、咳だけが続くタイプの病態です。「風邪が長引いている」と思っている方の中に、実は咳喘息だったというケースが非常に多くあります。市販の咳止めはほぼ効果がなく、適切に治療しないと典型的な喘息に進行するリスクがあります。
気管支喘息 気道の慢性的な炎症により空気の通り道が狭くなる病気です。日本では成人の約12人に1人がかかっているといわれますが、継続的に治療を受けている方はごく一部です。夜間や明け方に症状が悪化しやすく、気温差・花粉・煙など様々な刺激で誘発されます。「以前喘息と言われたが、症状が落ち着いたので薬をやめた」という方が、数年後に症状が再燃して受診されるケースも多くあります。
COPD(慢性閉塞性肺疾患) 主に長年の喫煙が原因で、気道と肺胞が徐々に傷んでいく病気です。「年のせいで息切れしやすくなった」と思っていたら実はCOPDだった、というケースが少なくありません。初期は自覚症状が乏しいため、呼吸機能検査(スパイロメトリー)による早期発見が重要です。
アレルギー性の咳 花粉やダニ、ほこりなどのアレルゲンが引き金になる気道の炎症です。鼻炎だけ治療していても、下気道まで炎症が及んでいると咳が止まらないことがあります。「花粉症の季節だけ咳が出る」という場合、上気道と下気道を一体で評価する必要があります。(咳喘息との鑑別が難しいため切り分けずに治療することも多いです。)
感染後の咳 何らかのウィルス感染後(コロナ・RS・ライノなど)に咳・息切れ・倦怠感が長引くケースです。気道に炎症が残っていることがあり、呼吸器専門医による評価が必要な場合があります。
なぜ慢性的な咳が止まらないのか──「タイプ2炎症」という概念
咳喘息や喘息の背景にある炎症のメカニズムとして、近年「タイプ2炎症(Type 2 inflammation)」という考え方が広く使われるようになりました。
簡単に言うと、免疫細胞から放出されるIL-4・IL-5・IL-13というサイトカイン(免疫の伝達物質)という炎症生サイトカインという特別な物質が引き金となり、気道に好酸球などの厄介な細胞が集まり、炎症・粘液の過剰分泌・気道の狭窄が連鎖的に起きる状態です。
この炎症は、咳止め薬では到達できません。タイプ2炎症への対処には、吸入ステロイドによる炎症抑制が基本となり、重症例では後述する生物学的製剤が必要になります。
重要なのは、この炎症は「症状がない時期にも進行し続ける」ということです。一時的に症状が落ち着いたからといって治療をやめると、気道の炎症がじわじわと積み重なり、将来的に呼吸機能そのものが低下するリスクがあります。
タイプ2炎症の評価に使う検査

タイプ2炎症の有無や程度は、以下の検査で評価できます。どれも体への負担が少ない検査です。
血中好酸球数(採血) タイプ2炎症の有無を見る最も基本的な指標です。150cells/μL以上で疑い、300cells/μL以上で喘息の診断を支持する目安とされています。500cells/μL以上は重症喘息の可能性を考慮した治療戦略が必要になります。
FeNO(呼気一酸化窒素濃度) 息を吹き込むだけで測定できる検査です。タイプ2炎症が進んでいると数値が上がります。20ppb以上では気道のタイプ2炎症が存在(喘息が存在)する可能性が高いとされており、35ppb以上では喘息と診断する根拠となります。
呼吸機能検査(スパイロメトリー) 肺活量や気道の狭窄の程度を測定する検査です。COPDや喘息の診断・重症度評価に不可欠です。
横浜フロントクリニックでは、これらの検査を受診当日に実施し、原則としてその日のうちに診断・治療方針の提示まで行います。
治療の選択肢──吸入ステロイドから生物学的製剤まで

吸入ステロイド(ICS)・気管支拡張薬 咳喘息・喘息の標準治療です。タイプ2炎症を直接抑えることで、症状のコントロールを目指します。「ステロイド」と聞いて敬遠される方もいらっしゃいますが、吸入薬は気道に直接作用するため、全身への影響は内服薬と比較にならないほど極めて少なく設計されています。
生物学的製剤 吸入ステロイドを含む標準治療でも症状がコントロールできない重症喘息に対して使われる注射薬です。タイプ2炎症の原因となるサイトカインを直接ブロックすることで、発作の頻度を大幅に減らすことが期待できます。
横浜駅直結の横浜フロントクリニックでは、呼吸器専門医が在籍しているため、デュピクセント(IL-4・IL-13阻害)・ヌーカラ及びファセンラ(IL-5系製剤)・ゾレア(IgE阻害)・テゼスパイア(TSLP抗体)などの生物学的製剤を用いた治療にも幅広く対応しています。どの薬剤が適切かは、血中好酸球数・FeNO・IgEなどのバイオマーカーをもとに判断します。
こんな症状・状況の方は、一度受診してください
- 咳が2から3週間以上続いている
- 市販の咳止めを1週間飲んでも改善しない
- 夜間・明け方に咳や息苦しさが強くなる
- 冷たい空気・花粉・タバコの煙で咳が誘発される
- 風邪が治ったのに咳だけが残っている
- 「異常なし」と言われ続けているが咳が止まらない
- 過去に喘息と診断されたが、自己判断で治療をやめた
- 吸入薬を続けていても発作が治まらない
喘息と向き合い続けるすべての方へ
「どこに行っても原因がわからなかった」「ずっと治療しているのに発作がなくならない」という経緯を持つ方が、専門クリニックを頼ってくださることがあります。
呼吸をしっかりコントロールできることは、仕事や日常生活の質に直結します。ぜん息を理由に何かを諦めてほしくない、という思いがこのクリニックの出発点にあります。

執筆者情報
井上 哲兵(いのうえ・てっぺい)
医療法人社団南州会 フロントクリニックグループ 理事長/医学博士
日本呼吸器学会 呼吸器専門医
2019年4月に医療法人社団南州会 理事長に就任。現在は3院の呼吸器医専門クリニックを要するフロントクリニックグループを運営。
フロントクリニックグループ一覧
- 三浦メディカルクリニック
- 横浜フロントクリニック
- 東京品川フロントクリニック
- 目黒区分院(2026年9月開院予定)
- 新宿区分院(2027年12月開院予定)
【保有資格・所属学会】
- 緩和ケア研修会修了医
- 医学博士
- 日本内科学会認定内科医
- 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
- 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医
- 日本医師会認定産業医
- 厚生労働省認定 臨床研修指導医
- 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
- 難病指定医(呼吸器)