• 1月 16, 2026

「呼吸機能低下の行き着く先」と、慢性呼吸器疾患における日常管理の本当の重要性 を解説します

「少し歩いただけで息が切れるようになった」
「以前より外出が億劫になってきた」

呼吸器内科の外来では、
このような一見すると年齢や体力の問題に見える訴えに日々向き合っています。

そして診療を続けていると、
多くの方が一度は目にしたことのある光景に行き着きます。

酸素ボンベを引きながら、ゆっくりと歩く人の姿です。

鼻には細いチューブ。
歩く速度は自然と制限され、少し進んでは立ち止まり、呼吸を整える。

この姿は、
「高齢だから」「重い病気だから」という単純な理由ではありません。

肺が、体の要求するだけの酸素を届けられなくなった結果としての“日常の形”なのです。


「酸素が足りなくなる体」へ進んでいく病気

代表的な病気の一つが、肺気腫(COPD:慢性閉塞性肺疾患の1つのタイプ)です。

肺気腫という言葉を聞いても、
「名前は聞いたことがある」
「詳しいことはよく分からない」

という方がほとんどだと思います。

とてもシンプルに言うと、肺気腫は喫煙によって肺が“酸素を取り込む力”を少しずつ失っていく病気です。

肺は本来、

  • 息を吸って新しい酸素を取り込み
  • 息を吐いて不要なガスを外に出す

この入れ替えを、無意識のうちに繰り返しています。

しかし肺気腫では、肺の中の細かな構造が壊れ、息を吐ききれなくなります。

すると肺の中の空気を入れ替える「効率」が下がり、酸素が体内に取り込まれにくくなります。

この状態が続くと、安静にしているときは問題なくても、
歩く・階段を上るといった日常動作だけで、酸素が足りなくなるようになります。

その結果として、歩行時にも酸素ボンベが必要な生活が始まるのです。


なぜ歩行でも酸素が必要になるのか

呼吸器内科では、肺気腫を含む慢性呼吸器疾患の重症度を、

  • 呼吸機能検査(スパイロメトリー)
  • 動脈血中の酸素濃度
  • 歩行や運動時の酸素低下

といった客観的な指標で評価します。

これらは、日本呼吸器学会や国際的なCOPD診療ガイドラインでも示されている、標準的な評価方法です。

病気が進行すると、

  • 安静時は問題ない
  • しかし歩行や階段で酸素が急激に低下する

という段階に入ります。

この状態では、歩くという日常動作そのものが酸素不足を招くため、在宅酸素療法が必要になります。

酸素ボンベを必要とする生活は、突然始まるものではありません。長年にわたる呼吸機能低下の積み重ねの結果なのです。


酸素療法が意味するもの

在宅酸素療法は、「最終手段」や「延命治療」ではありません。

多くの臨床研究やガイドラインでは、生命予後と生活の質を守るために不可欠な治療であることが示されています。

一方で、現実として、

  • 外出の自由度が下がる
  • 行動範囲が制限される
  • 「普通に歩く」ことが大きな負担になる

という生活上の制約を伴います。

実際の診療現場で、患者さんからよく聞く言葉があります。

「息さえ普通にできれば、それでよかった」

呼吸は、生きるための機能であると同時に、生活そのものです。



呼吸器内科が「日常管理」を重視する理由

呼吸器内科では、呼吸器診療において次の点を重視します。

  • 症状だけでなく呼吸機能やCT画像を定期的に評価する
  • 治療強度が適切にコントロールされているかを確認する
  • 自己判断で治療が中断されていないかを見る

これらを綿密に精密に行う目的は一つ。

将来、酸素に頼らない生活を守ること、すなわち重症化予防です。


考えるべき「未来の姿」

在宅酸素療法は呼吸器疾患管理が疎かになり呼吸機能が失われていった結果、誰にでも起こり得る未来の一つです。

適切な日常管理を続けることで、その未来を大きく変えられる病気です。

喘息、COPDの吸入はちゃんと毎日行っていますか?間質性肺炎の薬の飲み忘れはないですか?今一度、ご自身の治療法、薬の必要性について考えてみてください。不要な薬と自己判断してはいませんか?


まとめ

呼吸器疾患(肺気腫・COPD・喘息・間質性肺炎など)患者の未来は、日常管理がすべてを決めると言っても過言ではありません。

呼吸器疾患は「今つらいかどうか、安定しているかどうか」だけで判断する病気ではありません。

  • 今の呼吸を守る
  • 未来の呼吸を守る
  • 自分の足で歩ける生活を守る

そのすべてを左右するのが、日常管理です。

「調子がいいから大丈夫」そう感じている時こそ、

一度立ち止まって呼吸を見直してみてください。

呼吸は、あなたの生活そのものだからです。


参考資料・公式リンク

学会・ガイドライン

  • 日本呼吸器学会 https://www.jrs.or.jp/
  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)診療ガイドライン https://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/
  • 喘息予防・管理ガイドライン(JGL) https://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=46

国際基準

  • Global Initiative for Asthma(GINA) https://ginasthma.org/
  • Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD) https://goldcopd.org/

公的機関

  • 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/

執筆者情報

尾上林太郎(おのえ・りんたろう)

医療法人社団南州会 理事/医学博士
日本呼吸器学会 呼吸器専門医

2013年に聖マリアンナ医科大学卒業後、同大学病院研修医を経て、2015年同大学内科学(呼吸器)大学院入学 呼吸器内科診療助手、2019年同大学院修了 同大学病院呼吸器内科学助教、2024年5月横浜フロントクリニック 院長就任(現職)

【保有資格】

  • 医学博士
  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本呼吸器学会呼吸器専門医
  • 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
  • 難病法における難病指定医(呼吸器)
  • 緩和ケア研修会修了医
  • アレルギー舌下免疫療法適正使用管理体制に基づく講義の受講・試験の修了医
  • オンライン診療研修修了医師

井上 哲兵(いのうえ・てっぺい)
医療法人社団南州会 フロントクリニックグループ 理事長/医学博士
日本呼吸器学会 呼吸器専門医

2009年に聖マリアンナ医科大学医学部を卒業後、同大学の研修医・呼吸器内科を経て、国立病院機構静岡医療センターにて呼吸器診療の研鑽を積む。

2019年4月に医療法人社団南州会 理事長に就任。
同年8月に三浦メディカルクリニックを開院し、以降も以下のクリニックを展開。

  • 横浜フロントクリニック
  • 東京品川フロントクリニック
  • 目黒区分院(2026年9月開院予定)
  • 新宿区分院(2027年12月開院予定)

【保有資格・所属学会】

  • 緩和ケア研修会修了医
  • 医学博士
  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
  • 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医
  • 日本医師会認定産業医
  • 厚生労働省認定 臨床研修指導医
  • 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
  • 難病指定医(呼吸器)
横浜フロントクリニック 045-577-0121 ホームページ