- 1月 10, 2026
加湿器・ガーデニングなどで感染する「肺MAC(マック)症(肺非結核性抗酸菌症)」を呼吸器専門医が解説します。

「吸入薬を続けているのに、咳が完全には止まらない」
「喘息と言われているが、最近は痰が増えてきた気がする」
呼吸器内科の外来では、このような“説明しきれない違和感”を抱えた患者さんに日々出会います。
精密に診ていくと、その背景に見つかることがあるのが
肺MAC症は、喘息や咳喘息などのその他の呼吸器疾患と症状が重なりやすく、
診断までに時間がかかりやすい呼吸器疾患の一つです。
「喘息」と診断されていた患者さんの背景にあったもの
実際の診療現場で、決して珍しくないケースがあります。
一つ過去の事例をお出しします。
60代の女性の患者さんです。
数年前から続く咳と痰のため「成人喘息」と他院で診断され、吸入治療を継続していました。
発作的な苦しさは落ち着いているものの、
- 咳が完全には消えない
- 痰が以前より増えている
- 最近、体重が少しずつ減ってきた
という変化が見られた為当法人のクリニックを受診されました。
詳しく生活背景を伺うと、
- 冬場は毎年、超音波式加湿器を常時使用
- 自宅の庭でガーデニングが日課
胸部CT検査では、中葉・舌区を中心とした気管支拡張と小結節影というMAC症に特徴的な所見を認めました。
痰の培養検査で Mycobacterium avium (マイコバクテリウム アビウム)が検出され、肺MAC症と診断しました。
患者さんはこう話されました。
「喘息だと思い込んでいて、別の病気の可能性を考えたことがありませんでした」
肺MAC(マック)症とは ― 日常環境に潜む“環境菌”の病気
肺MAC症は、非結核性抗酸菌(NTM)による慢性感染症です。
結核とは異なり、人から人へうつる病気ではありません。
原因菌は、
- 井戸水
- 浴室や台所
- 加湿器の内部
- 園芸用土・腐葉土
など、私たちの身近な生活環境に広く存在しています。
そのため肺MAC症は、
特別な場所に行った人だけがかかる病気ではなく、
日常生活の延長線上で起こり得る呼吸器疾患といえます。
なぜ加湿器やガーデニングが関係するのか
加湿器との関係

非結核性抗酸菌は水を好む菌です。
特に超音波式加湿器は、水を加熱せずに微細な霧として放出するため、
- タンク内部で菌が増殖
- 菌を含んだ粒子を吸い込む
- 長期間の使用で肺に定着
といったリスクが指摘されています。
見た目が清潔でも、内部構造まで完全に洗浄・乾燥することは容易ではありません。
ガーデニングとの関係

園芸用土や腐葉土は、非結核性抗酸菌が多く存在する環境です。
- 土の入れ替え
- 鉢植えの手入れ
- 乾燥した土埃の吸入
こうした作業を長年にわたり繰り返すことが、感染のきっかけになると考えられています。
肺MAC症が見逃されやすい理由の一つが、喘息などのその他の呼吸器疾患との症状の重なりです。
実際に、
「喘息の検査結果は落ち着いているのに、咳と痰がずっと続く」というケースで肺MACが見つかることもあります。
呼吸器疾患をもつ方が抱える“合併リスク”
喘息などの慢性呼吸器疾患をもつ方が
- 喘息+肺マック
- 喘息+気管支拡張症
といった複数の病態が重なった状態になった場合、相乗効果でより呼吸器症状が重くなってしまうことがあるのです。
呼気NO検査やアレルギー採血などでそこまで重症の喘息ではないはずなのに、症状が重い場合は、喘息+その他の疾患が合併している可能性を考えCTで精密な検査をする必要があります。
専門医による再評価が必要なサイン
次のような変化がある場合は、症状の再評価が重要です。
- 咳の質が変わった
- 痰が増えた、切れにくくなった
- 体重が減ってきた
- 吸入治療への反応が以前より悪い
これらは、喘息以外の疾患が重なっている可能性を示します。
治療は「CT画像+自覚症状」で開始するかを判断する
肺MAC症の治療は、
- 複数の抗菌薬
- 数年以上の長期治療
が必要になることもあります。
一方で、症状や進行度によっては、
すぐに治療を開始せず、慎重に経過をみる選択が最善となる場合もあります。それは薬の副作用の観点からです。肺MAC症の治療は複数の抗菌剤を使用することから副作用マネージメントが極めて重要です。よって、軽症からすぐに始めるのではなく、治療が必要になったら始めるということが大切なのです。
大切なのは、
CT画像で定期的にフォローアップを行い、治療開始時期を逃さないことです。治療が遅れてしまうと、肺が不可逆的に破壊されてしまい元に戻らなくなってしまうのです。
日常生活でできる現実的な対策
- 加湿器は内部構造まで定期的に洗浄・乾燥
- 使用しない時期は完全に乾かす
- 喘息の治療中にもかかわらず、咳が3か月以上続く場合は自己判断しない
最後に
肺MAC症は、喘息などの呼吸器疾患陰に隠れやすい一方で、早期に気づけば適切に管理できる病気です。
「喘息だから仕方ない」と思わず、
症状の変化を一度立ち止まって見直すことが、将来の肺を守ることにつながります。
長引く咳や痰に違和感がある方は、ぜひ一度、呼吸器専門医にご相談ください。
参考資料・公式リンク
学会・ガイドライン
- 日本呼吸器学会 https://www.jrs.or.jp/
- 非結核性抗酸菌症 診療ガイドライン(2020 改訂) https://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=94
- 喘息予防・管理ガイドライン(JGL) https://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=46
国際基準
- Global Initiative for Asthma(GINA) https://ginasthma.org/
- ATS / ERS / ESCMID / IDSA 非結核性抗酸菌症 国際診療ガイドライン https://academic.oup.com/cid/article/71/4/905/5707611
公的機関
- 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/
- 国立感染症研究所|非結核性抗酸菌症 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/392-ntm.html
執筆者情報
尾上林太郎(おのえ・りんたろう)
医療法人社団南州会 理事/医学博士
日本呼吸器学会 呼吸器専門医
2013年に聖マリアンナ医科大学卒業後、同大学病院研修医を経て、2015年同大学内科学(呼吸器)大学院入学 呼吸器内科診療助手、2019年同大学院修了 同大学病院呼吸器内科学助教、2024年5月横浜フロントクリニック 院長就任(現職)
【保有資格】
- 医学博士
- 日本内科学会認定内科医
- 日本呼吸器学会呼吸器専門医
- 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
- 難病法における難病指定医(呼吸器)
- 緩和ケア研修会修了医
- アレルギー舌下免疫療法適正使用管理体制に基づく講義の受講・試験の修了医
- オンライン診療研修修了医師
井上 哲兵(いのうえ・てっぺい)
医療法人社団南州会 フロントクリニックグループ 理事長/医学博士
日本呼吸器学会 呼吸器専門医
2009年に聖マリアンナ医科大学医学部を卒業後、同大学の研修医・呼吸器内科を経て、国立病院機構静岡医療センターにて呼吸器診療の研鑽を積む。
2019年4月に医療法人社団南州会 理事長に就任。
同年8月に三浦メディカルクリニックを開院し、以降も以下のクリニックを展開。
- 横浜フロントクリニック(2024年5月開院)
- 東京品川フロントクリニック
- 目黒区分院(2026年9月開院予定)
- 新宿区分院(2027年12月開院予定)
【保有資格・所属学会】
- 緩和ケア研修会修了医
- 医学博士
- 日本内科学会認定内科医
- 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
- 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医
- 日本医師会認定産業医
- 厚生労働省認定 臨床研修指導医
- 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
- 難病指定医(呼吸器)
