- 1月 3, 2026
吸入治療は進化している?呼吸器専門医が解説します

(この記事は、日本の喘息ガイドラインの内容を踏まえて、呼吸器内科専門医の視点で解説しています)
はじめに
喘息と暮らしていると、「自覚症状のない日常」が続く時期があります。
咳も少ない、息苦しさも目立たない、日々の生活は問題なく回る。
それはとても良い状態ですが、同時に――
「治療を続ける理由が見えにくくなる」
「吸入薬を今も続ける意味が分からなくなる」
「このまま止めても大丈夫なのでは?」
と感じることでもあります。
その時ふと頭をよぎるのが、
「吸入治療って、昔からある治療だよね?」
「発作が起きた時に治療するものだよね?」
という疑問かもしれません。
しかし、吸入治療は大きく進化しています。
薬が増えただけではありません。
治療の目的、考え方、薬の選び方――その前提が根本から変わっています。
そしてこの変化は、
自覚症状が出ていない時期こそ、
あなたの未来の生活に深く関わります。
ここから先は日本のガイドラインの内容も交えながら、
「吸入治療の今」を整理していきます。
昔と今:ガイドラインで見る「吸入治療」の変化
1)昔の考え方
20年以上前の治療の考え方は大きく、
「長期管理薬(コントローラー)」と「急性発作の治療に用いる薬剤(リリーバー)」に分けて…使う
と整理されていました。
つまり、
- 普段から使う薬(コントローラー:吸入ステロイド単剤(全身に及ぶ副作用はほとんどない))
- 発作のときに使う薬(リリーバー:短時間作用型気管支拡張剤、副作用に注意が必要なステロイドの内服や点滴)
当時は現在ほど治療選択肢が多くなく、
“コントローラーである吸入ステロイドを使用するも、それでも苦しくなったら発作薬を吸ってしのぐ、それでもダメならステロイドの内服や点滴を行う”という発想が強かった時代です。発作の回数が多い患者さんは、運動制限をしたり、転地療法(都心から田舎への引越し)を行なったり、仕事を変えたりしなくてはならない時代が実際にあったのです。そして今の医療水準からは信じられないのですが、喘息での入院も数多かったのです。
2)現在は吸入ステロイド3剤合剤(ステロイド+2種類の気管支拡張剤)が標準になりつつある。
現在のガイドラインでは、
「長期管理の中心は吸入ステロイド」+「長時間作用型β2刺激系気管支拡張剤」(+「長時間作用型抗コリン薬系気管支拡張剤」)
の2剤合剤あるいは3剤合剤の吸入療法をしっかり行い、喘息発作が出たらその都度対応という考え方から、発作の回数を1年を通して0にしていこうという考え方がより明確になりました。
もともとCOPDの薬だった 長時間作用型抗コリン薬 が喘息にも使用できるようになり、より確かなコントロールが速やかに出来るようになったのです。
吸入ステロイドを軸に、気管支拡張剤を複数組み合わせて より、患者さんにあった治療を最適化する時代になったのです。
ガイドラインの方向性そのものが変わってきているのです。
患者さん目線で言うと、何が変わったのか?
ガイドラインの変化を、患者さん目線に翻訳するとこうなります。
◎昔のイメージ
- 苦しくなったら発作止めでしのぐ
- 調子が良ければ薬は減らしたい
- 治療は「今の症状」を基準
◎今の考え方
- 症状がなくても 炎症は残ることがほとんど。
- 吸入ステロイドを続けることで 未来の発作リスクを減らせる
- コントロールが難しければ速やかに治療強化を行う。
- 検査を踏まえて 治療強度を調整する考え方へ
つまり、治療の意義が
「今の症状・生活を楽にするもの」から「未来の生活を守るもの」へ
大きく変わっています。
目先の事より、将来の事を重視した治療戦略が必要な時代になったのです。
吸入薬を続ける意味──「症状がない日」こそ重要
喘息は、症状コントロールと気道の炎症コントロールが必ずしも一致しません。
一時的に症状が落ち着いても、
気管支の内側で炎症がくすぶっていると、
- 肺機能の経年低下が加速
- 悪化・重症化リスクの増加
につながると考えられています。
だから、
「症状がないから薬をやめてもいい」というわけではないのです。
治療の本当の目的は、
“次の悪化(増悪)を無くす”こと。
未来への投資としての治療と考えてみてください。
では、いつ治療薬を減らしていい?
ガイドラインでも、
状態に応じて治療を軽くする(ステップダウンする)ことは認められています。
ただし条件があります。
- 適切なコントロールが続いている
- 検査結果が安定している
- 日常生活で症状が出ていない
これらを見ながら、
呼吸器専門医と一緒に調整していくのが安全です。
最後に、治療は“ゼロか100か”ではない
喘息治療は、症状の有無だけで自己判断すると将来大きなツケがやってきます。
吸入薬を増やす、続ける、減らす。
どの段階でも、検査で状態を把握しながら調整していくことが重要です。
適切な治療を継続することで、
日常の呼吸は安定しやすくなり、悪化のリスクを減らせます。
特別なことをする必要はありません。
必要な治療を、適切な強さで続ける。
その積み重ねが、生活の質につながります。
過不足のない治療で日常の呼吸、そして必ず訪れる将来・未来を守っていきましょう。
執筆者情報
尾上林太郎(おのえ・りんたろう)
医療法人社団南州会 理事/医学博士
日本呼吸器学会 呼吸器専門医
2013年に聖マリアンナ医科大学卒業後、同大学病院研修医を経て、2015年同大学内科学(呼吸器)大学院入学 呼吸器内科診療助手、2019年同大学院修了 同大学病院呼吸器内科学助教、2024年5月横浜フロントクリニック 院長就任(現職)
【保有資格】
- 医学博士
- 日本内科学会認定内科医
- 日本呼吸器学会呼吸器専門医
- 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
- 難病法における難病指定医(呼吸器)
- 緩和ケア研修会修了医
- アレルギー舌下免疫療法適正使用管理体制に基づく講義の受講・試験の修了医
- オンライン診療研修修了医師
井上 哲兵(いのうえ・てっぺい)
医療法人社団南州会 フロントクリニックグループ 理事長/医学博士
日本呼吸器学会 呼吸器専門医
2009年に聖マリアンナ医科大学医学部を卒業後、同大学の研修医・呼吸器内科を経て、国立病院機構静岡医療センターにて呼吸器診療の研鑽を積む。
2019年4月に医療法人社団南州会 理事長に就任。
同年8月に三浦メディカルクリニックを開院し、以降も以下のクリニックを展開。
- 横浜フロントクリニック(2024年5月開院)
- 東京品川フロントクリニック(2026年1月5日開院)
- 目黒区分院(2026年9月開院予定)
- 新宿区分院(2027年12月開院予定)
【保有資格・所属学会】
- 緩和ケア研修会修了医
- 医学博士
- 日本内科学会認定内科医
- 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
- 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医
- 日本医師会認定産業医
- 厚生労働省認定 臨床研修指導医
- 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
- 難病指定医(呼吸器)
