- 1月 4, 2025
吸入ステロイド薬は怖い薬じゃない
南州会法人理事長の著書『ぜんそくと診断されたら読む本』から吸入ステロイド薬について抜粋しました。 吸入ステロイド薬をきちんと医師の指示どおり吸わない人はひょっとしたら心のどこかで、 吸入ステロイド薬は怖いと思っているのかもしれません。
実は、ステロイド薬を吸入することに抵抗を感じている人は多くいます。ステロイド薬と聞くとまず思い浮かぶのが「副作用が強い」ということのようです。ぜんそくは生涯にわたって付き合っていく病気ですから、治療をするということは、長期間にわたってステロイド薬を吸入することになります。すると、「そんなに長い期間、吸入ステロイド薬を服用しても本当に 大丈夫なのだろうか」と不安になります。この不安が治療の中断につながったり、吸入するにしても回数や量を減らしてしまったりという行動につながっているように感じます。
しかし、吸入ステロイド薬は、正しく使用すれば、非常に安全で副作用の心配もほとんどありません。吸入ステロイド薬の最大の利点は、炎症を抑えるステロイド薬を口から吸い込んで、 直接、気道に届けられることです。そのため、内服薬(飲み薬)に比べて、ステロイドの量を大幅に減らすことができ、全身への影響を最小限に抑えられるのです。
ステロイド薬は、投与方法によって点滴、内服(飲み薬)、軟膏(ぬり薬)、吸入の4つのカテゴリーに分けられます。
多くの人は、これらの投与方法を区別することなく、すべて同じ副作用があると思い込んで います。しかし、それはまったくの誤解です。全身に大きな副作用を及ぼすのは、「点滴」と「内服」の形態だけです。この2つを総称して「全身性ステロイド薬」と呼びます。「全身性ス テロイド薬」の場合は、使用期間が短期か長期にかかわらず、血液に運ばれて全身に作用するため、症状のない部位にまで影響が出て、さまざまな副作用が表れます
〇経口ステロイド薬(全身性)の使用による副作用
・短期使用の副作用
食欲増進/体重増加/にきび/気分障害
・長期使用の副作用(3カ月以上)
体重増加/皮膚菲薄化/筋力低下/クッシング症候群/糖尿病/骨粗鬆症/緑内障/高血圧/ 創傷治癒の遅延/小児の発育障害/感染リスクの上昇/胃炎/胃潰瘍/消化管出血
全身性ステロイド薬は、このようにさまざまな合併症を発症するリスクがあります。よく使 われる内服ステロイド薬「プレドニン」を、1錠5mg飲むだけで、感染症にかかりやすくなり、 骨粗鬆症も進行していきます。2錠 mg飲むと糖尿病になりやすくなりますし、白内障も進行 します。さらには、精神疾患も進行していくことがあります。ステロイド性鬱と呼ばれるもの です。全身性ステロイド薬を漫然と使うことは、極力、避けなければいけません。
一方で、軟膏や吸入のステロイド薬は全身ではなく、使用した部位にのみ作用し、それ以外 の部位にはほとんど吸収されません。軟膏は、症状の出ている一部の皮膚に塗るだけですし、 吸入ステロイド薬は吸入することで気管支や肺に直接作用してくれます。 また、ぜんそくで使う吸入ステロイド薬の量は非常に少ないため、点滴や内服薬に比べて副 作用のリスクは格段に低くなります。 例えば、前述したとおり内服薬「プレドニン」には1錠5mgのステロイドが含まれており、 1回に3~4錠服用するケースが多く、15~20mgのステロイドを服用することになります。一 方、吸入ステロイド薬の1回の投与量に含まれるステロイド量はわずか100~200μgです。 1mgの1000分の1の単位になるのです。内服薬と比べて非常に微量であることが分かると思います。量が非常に少ないので長期間使用しても、副作用はほぼありません。 ぜんそくの治療で使うのは、基本的に副作用がほとんどない「吸入ステロイド薬」です。し かし、治療を中断するなどしてコントロール不良やリモデリングになった場合は、点滴や内服 ステロイド薬を使わざるを得なくなり、大発作が起きたときには全身性ステロイド薬で発作を 抑えることになります。つまり、ぜんそくの症状がコントロールできないケースに限って点滴 や内服ステロイド薬が使用されるのです。 点滴や内服ステロイド薬の副作用は、非常に怖いも のです。しかし、吸入ステロイド薬まで「怖い」と誤解したままだと、「使いたくない」という気持ちが勝り、しっかり治療ができなくなります。その結果、本当に怖い内服や点滴のステロイド薬を継続的に使わなければならなくなってしまうのです。全身性ステロイド薬が必要になるまで重症化させないためにも、吸入ステロイド薬をしっかり使う必要があるのです。 ところで、ステロイドを怖いといって遠ざける人もいれば、逆に内服ステロイド薬の効果が 即効性に優れていることから、内服ステロイド薬に依存してしまう人もいます。 内服ステロイド薬はぜんそくの発作を止め るのに、てきめんの効果を現します。薬自体 の費用も高くありません。そのため、重症の発作が起きても、「内服ステロイド薬を服用 すれば大丈夫」「内服ステロイド薬でなんとかなるだろう」と考える人が出てきます。そのような人は、毎日服用する吸入ステロイド薬の治療をおろそかにしています。 長期的なリスクの回避より、目の前にある症状を止めさえすればいいと考えてしまうのですが、これは非常に困ったことです。全身性ステロイド薬の副作用はたいへん重いからこそ、全身性ステロイド薬になるべく頼る治療にならないように、吸入ステロイド薬をしっかり吸入してほしいのです。