• 1月 4, 2025
  • 4月 27, 2025

妊娠と授乳と喘息治療薬

喘息治療薬を使用している女性で妊娠を希望されている、あるいは妊娠中、授乳中という患者さんも多いかと思います。妊娠が分かった時、治療に使用している薬剤はどうしたらいいかご存知でしょうか。今回はそんな疑問にお答えします。

Q1:妊娠中と授乳中の吸入薬は継続した方がいいのか?安全性は?

答えはすごく簡単で基本的には吸入薬は継続することが求められます。赤ちゃんに大丈夫なの?というご質問を頂きますが、吸入薬は全身投与ではなく局所投与に分類されます。つまり皮膚科の軟膏をかゆい所に塗っているのと同じ扱いであり、全身への血流に乗ることはほとんどありません。仮に血流に全量移行したとしても吸入ステロイドのステロイド成分はμgの単位であり無視できる量とされています。

Q2:自己中断するとどうなるの?

喘息発作を起こす可能性が高まります。重度の喘息発作を起こした場合、胎児への酸素が十分量供給されなくなり、発育遅滞、低出生体重児などの原因となってしまう事があります。

Q3:自己中断して発作を起こしたときの対処法は?

吸入治療の再開を行い、状態によってはステロイドの内服や点滴を行います。

Q4:ステロイド投与の影響はないの?

Q1でも回答しましたが、基本的に吸入薬は妊娠中や授乳中であっても安全に使用できます。

一方で、内服や点滴のステロイドは胎児に影響を間接的に出す事があります。投与されたステロイドが胎盤を通過することはほとんど無く、胎児への直接的影響は極めて少ないと言われています。問題なのは間接的影響です。内服や点滴でステロイドを投与された妊婦さんは妊娠糖尿病を起こす可能性があったり、妊娠高血圧症を起こす可能性があったり、浮腫みの原因になったりします。

妊娠糖尿病になるとインスリン注射を開始しなくてはならい事もあります。巨大児のリスクにもなります。あまりにも巨大児だと経膣分娩が難しくなり帝王切開が必要になります。また、血糖コントロールが悪いと帝王切開後の傷の治りが悪くなったり、傷の感染のリスクが上昇したりします。

妊娠高血圧症になると胎児への血流が悪くなり低出生体重児になったりします。

授乳中は一時的なステロイドの使用は問題ありません。

Q5:結局どうしたらいいの?

妊娠が分かった際には速やかにかかりつけの医師に相談して、治療薬の調整を行なってください。決して自己判断でやめないようにしてくださいね。また、妊娠したから吸入薬を止めなさいと言う産婦人科の先生がいたら、正直なところ病院を変えた方がいいです。しっかりと内科的なことを理解しているDr.であれば短絡的にそのような指示を出すことは経験上まずありません。

文責:医療法人社団南州会 理事長 井上哲兵

経歴

  • 2003年浅野高校卒業
  • 2009年聖マリアンナ医科大学医学部卒業
  • 2009年4月~2011年3月同大学病院研修医
  • 2011年4月~2015年3月同大学呼吸器内科診療助手兼同大学内科(呼吸器)大学院
  • 2015年4月~2018年3月同大学呼吸器内科助教
  • 2018年4月~2019年3月独立行政法人国立病院機構静岡医療センター呼吸器内科医長
  • 2019年4月医療法人社団南州会理事長/聖マリアンナ医科大学非常勤講師
  • 2019年8月三浦メディカルクリニック院長
  • 2024年5月横浜フロントクリニック開院

資格・役職

  • 医学博士
  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本呼吸器学会呼吸器専門医
  • 日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医
  • 日本医師会認定産業医
  • 厚生労働省認定臨床研修指導医
  • 身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
  • 難病法における難病指定医(呼吸器)
  • 緩和ケア研修会修了医
  • アレルギー舌下免疫療法適正使用管理体制に基づく講義の受講・試験の修了医
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